未来材料としてのマイクロバブル

超高速旋回式で発生したマイクロバブルのほとんどが収縮し、その過程で負電位を高めるとともに発光することなどに関する物理化学的特性について考察した。また、それらの特性を踏まえ、健康材料、食糧材料、生物活性材料という広い分野における最適材としてのマイクロバブルについて検討し、その有効性を明らかにした。

1 はじめに

この地球上に無尽蔵に存在し、それを誰もが自由に使うことができて、しかも簡単な方法で「新たな物質」を創出し、さらにその物質には優れた「作用」や少なく ない「機能性」が付与されているとすると、それは究極に近い「未来材料」となる可能性がある。
マイクロバブルは、「このような材料になりうるのか」。これが本稿において考究する主題である。

周知のように、マイクロバブル技術は、1995年にマイクロバブル発生装置が開発されたことに端を発し、その後もダム貯水池の水質浄化、水産養殖の分野を皮切りに、健康・医療・食糧・バイオ,環境・エネルギーなどの分野で着実な発展を遂げてきた1)2)。その理由には、マイクロバブルが有する「優れた物理化学的特性」と「特別の生物作用」がある3)。
 まず、前者については、その気体溶解効率に関する開発指向が生まれた。マイクロバブルという超微細な気泡化が実現すれば、その表面積が飛躍的に増大し、気体溶解効率が格段に高まるこ とが予想されたからである。しかし、この指向は、まだ「成功」という扉を切り拓くに至っていない。その理由は、気体溶解効率を高めても、その絶対量を飛躍 的に増大させないと実用的には適合しない事例が多かったからである。
 また、その溶解効率向上に期待して期待にオゾンを用い、そのマイクロバブル化で酸化効 率に向上に期待して気体にオゾンを用い、そのマイクロバブル化で酸化効率を高める指向も生まれたが、もともとオゾンや水素は液体への溶解が困難な気体であ り、それを十分に克服することが可能な高溶解効率を実現することが切実に要求されるようになった。
 続いて、マイクロバブルの 「本性」のひとつともいえる生物活性作用が1999年に広島カキ養殖の改善実験において見出された。これは、その前年度において、広島、高知、三重と西日 本地方の広範囲の海域で、南方から持ち込まれた"Heterocapsa circularisquma"と呼ばれる新種の赤潮プランクトンが異常発生して二枚貝に壊滅的被害をもたらしたことを背景とし、その対策としてマイクロ バブル技術が適用されたことに端を発していた。その赤潮対策として用いられたマイクロバブルが、カキの斃死防止とともに現地で初めて見出された1)。
 具体的には、「マイクロバブルで通常の2~3倍の血流促進が得られる」という「生理活性作用」が観察され、それがホタテやアコヤガイにおいても同じであるこ とが確かめられた。また、その「活性」の作用を利用して、2000年には広島史上初の「真がき」の夏出荷が可能となった。これで、マイクロバブルがカキに 付着していた細菌を完全に除菌するという貴重な機能性も明らかになった。 また、ダム貯水池など閉鎖水域の水質浄化、温泉における健康改善、半導体工場の洗浄、それを含む各種排水処理や食品などの分野においても有効利用がなされるようになり、その裾野は、徐々に広がり始めている(図1)。

図1 マイクロバブル技術の発展

図1 マイクロバブル技術の発展

2 マイクロバブルの特徴

2.1マイクロバブルの収縮特性

 マイクロバブルとは、広義には、マイクロサイズの「超微細な気泡」のことをいうが、狭義には、「その発生時において10~数十μmの直径を有する気泡」と定義される1)。この狭義の定義を行なう理由は、マイクロバブルのほとんどが、その発生後に「収縮する」ことと関係している。

図2に、カキ筏で発生したマイクロバブルの様子と超高速旋回式発生装置2)、さらにその収縮過程を図3に示す。これより、マイクロバブルが静止中で上昇しながら徐々に収縮している様子が明らかである。この収縮運動には、次の特徴が観察されている。

(a) カキ筏で発生させたマイクロバブル

(a) カキ筏で発生させたマイクロバブル

(b) マイクロバブル発生装置(ナノプラネット研究所製)

(b) マイクロバブル発生装置(ナノプラネット研究所製)


1)収縮には、その速度がそれぞれ異なる次の3段階がある4)


  1. ①わずかにしか収縮しない:直径が数十μm前後のマイクロバブルであり、上昇に伴う圧力低下による膨張よりもマイクロバブル自身による収縮がわずかに上回る。また、直径が65μm以上になると、マイクロバブルは逆に膨張する。

  2. ②収縮速度が約1.3μm/sで収縮する:マイクロバブルの直径が40μmよりも小さくなると、収縮がほぼ一定の速度で約8μmまで収縮する。

  3. ③収縮速度が急増し、収縮・消滅する:この収縮速度の急増によって、マイクロバブルはマイクロナノバブルに変化する。この変化は、その収縮速度の違いによって区別される。この急激な収縮変化は、その直径が約8μm以下で起こる。

2)収縮運動のパターンには次の3つがある4)

  1. (1)まっすぐ上昇しながら収縮し、消滅する(図3)。
  2. (2)収縮の過程で、水平方向に揺動を伴いながら収縮・消滅する。
  3. (3)収縮の後期過程で回転しながら収縮・消滅する。

(2)、(3)のパターンは、気液界面における不均一性の形成のために、マイクロバブルおよびマ イクロナノバブルの内部の弱い部分から気体が噴出することに関係して起こる現象と考えられている。
ところで、マイクロバブルは、その装置内に形成される気 体旋回空洞部が超高速旋回(毎秒約500回転)し2)、その回転制御による切断によって発生するが、そのときの旋回空洞部の圧力は-0.06MPaであった。この負圧形成が、発生後のマイクロバブルの内部圧力にも影響を与えている。

これが引き金となり、発生後のマイクロバブルは、外部から正の圧力を受けて収縮を開始 し、その内部圧力を高めることで内外の圧力差を解消させようとする。
ところが、何か特別のダイナミズムが働くのであろうか。収縮はその圧力差を解消して停止されるのではなく、上述の内部気体が噴出する現象も加わりながら、さらに進行し、そして最後には消滅してしまうのである。

以上に関連して、マイクロバブルの発生機構の概念モデルを図4に示す。

    図3 マイクロバブルの収縮過程(水道水)

    図3 マイクロバブルの収縮過程(水道水)

    図4 マイクロバブルの発生機構

    図4 マイクロバブルの発生機構

     

    2.2マイクロバブルの負電位特性

    マイクロバブルの収縮に伴って生まれる優れた特性のひとつが負電位である。周知のように、気泡はもともと負電位を有するものであるがマイクロバブルの場合は、

    (1)収縮に伴ってその値が増加し、さらに直径が20μm前後においてピークを有すること(図5)(2) 負電位の絶対値が大きいことなどにその特徴がある。


    (1) については、マイクロバブルの直径が50μm付近で収縮する際に負電位が急増することに特徴があり、直径がそれよりも大きな数十μmの気泡とは負電位の値において大きく異なることが第一の注目点である。
     第二の注目点は、この負電位を増加させる気泡が収縮速度の増大を引き起こす(上記「2,1の1)の2」)それとほぼ一致することから、その収縮が負電位の増加を誘起させる現象として存在していることである。
     第三の注目点は、直径が10μm以下において負電位がやや減少する傾向を示すことである。これは、マイクロナノバブルやそれよりも小さなナノバブル*において、それらが有する負電位は、より小さいことを示唆している。2)につていは、たとえば、各種洗浄や排水処理、食品づくりなどに本特性を生かした利用が進行している。
    さらに重要なことは、この負電位がピークを示す気泡径とマイクロバブルの発生分布のピークがほぼ一致することである(図6)。つまり、マイクロバブルが最も発生しやすい気泡径において最も高い負電位を示すという,ある意味では「理想に近い」事実も判明したのである。

図5 マイクロバブルの負電位変化(水道水)

図5 マイクロバブルの負電位変化(水道水)

図6 マイクロバブルの発生分布(水道水)

図6 マイクロバブルの発生分布(水道水)

 

2.3マイクロバブルの発光特性

(a)スキャナー画像

(a)スキャナー画像

(b)マイクロスコープ画像

(b)マイクロスコープ画像


 マイクロバブルの第三の特性は、その収縮過程において自発光することである。
図7(a) に、マイクロバブルが発光した写真の一例を示す。これは、暗室内で水槽内に発生したマイクロバブルを接写撮影し、そのプリントを拡大することで得られたも のである。これより、マイクロバブルの発光が二重構造を有し、中心の強い発光部分と周辺の光の拡散から構成されていることが明らかである。この光の拡散領 域は20~30μm程度であり、中心部の強い斑点状の光の部分の直径は数μmである。

この発光の観察においては、経験的に約2人に1人の割合で目視できたことから、長野県阿智村にある昼神温泉「湯ったりーな昼神」において「光マイクロバブルを観る会」が2回にわたって開催された。この温泉水は水素イオン濃度がpH約10と比 較的高く、その分だけマイクロバブルの負電位が大きくなり、そのためにマイクロバブルの自発光が盛んになされると推測された。結果は、参加者30数名のう ちの約7割において発光の目視観察が可能となった。その際、中学生や高校生などの「若い世代」の方が、より優れた観察能力を発揮した。また、その発光色に ついては、それが「赤」、「白」、「青」であり、白色の場合は比較的大きな光の塊であることなどについて貴重な「証言」を得た。

そこで、これらを踏まえ、発光現象に関する究明課題を考察すると、以下のようになる。

  1. (1)マイクロバブルは収縮過程のどの段階において発光するのか。
  2. (2)どのような発光パターンがあるのか。サイズ、色は、いかなるものなのか。
  3. (3)発光の温度、エネルギーはどの程度か。そのメカニズムはいかなるものなのか。
  4. (4)発光が可能となる条件は何か。
  5. (5)対象物への発光作用はいかなるものなのか。

このうち(1)については、マイクロバブルの収縮過程で発光が繰り返されることが明らかになっている。
周知のように、超音波の発生に伴って気泡が形成され、それが加圧によって急激に収縮する(「圧壊現象」と呼ばれている)際に発光することが知られている5)マイクロバブルとの比較においては、


(1)発生周期において数万倍の差異がある
(2)収縮過程で複数回の発光を繰り返す(超音波の場合の単位周期当たりの発光回数は不明)
(3)大量のマイクロバブルが発光することなどを考慮して詳しく観察する必要がある。


発光色については、図7(a)において全体的に白青色を示すのに対し、図7(b)では写 真左から赤、白、青の領域が形成されている。この場合、白い部分は赤と青の部分が重なり、その光の強度が強いために白色を呈していると考えられる。なお、 本画像は、プリントされた写真をマイクロスコープで観察した結果であり、7(a)のスキャナー画像よりはかなり精度の良い画像が得られ、非常に小さな多数 の光の粒子の集団で構成されていることが注目される。

これらの発色因については、マイクロバブル内に含まれる空気の成分が関係している可能性があり、同様の発色傾向はオーロラ現象ともよく似ている。
この場合、赤色は窒素、青色は酸素に起因した発光であることが知られているので、それらの因果関係についても詳しく究明する必要がある。

3 適材のマイクロバブル


上記のマイクロバブルの物理化学的特性を踏まえ、次の3分野における「最適材」としての特徴を検討する。

3.1 健康分野

マイクロバブルは、水と空気を利用することで「安全・安心」を実現することに重要な特徴 のひとつがある。これに加えて、マイクロバブルには、「生理活性」というさらに重要な特性があり、その意味で「健康を生み出す」ことが可能であることか ら、それは「健康材料」とも呼べる。

すでに家庭用風呂装置としては、筆者が開発した「光マイクロバブルB1(㈱ナノプラネット研究所)」があり、温泉用としては山口県長門市の俵山温泉「白猿の湯」に続いて、長野県阿智村の昼神温泉「湯ったりーな昼神」が話題を呼んでいる。 特に「湯ったりーな昼神」においては、70歳以上の高齢者は無料であることも加わって、 それらの方々において「身体が軽くなった」、「足のむくみがなくなった」、「身体の痛みが和らいだ」、「夜トイレにいく回数が激減した」、「ぐっすり眠れ るようになった」などの感想が相次いで寄せられ、さらに個別の健康改善の事例も徐々に増加している。これらの感想や成果を踏まえ、その要因解明に取り組む ことにした。

同じ温泉水において、マイクロバブルを供給した場合とそうではない場合を比較検討した。 これについては、入浴時間において顕著な差が生まれた。前者においては20~30分、多いときは1時間以上になることもあった。これに対し後者においては せいぜい4から5分であり、この両者には小さくない差異があることが判明した。そこで、この両者において比較入浴を繰り返し、その「違い」が次の5つの 「ここちよさ」の有無にあることを突き止めた。

  1. (1)いつまでも長く入っていたいという「ここちよさ」。
  2. (2)出浴後もからだがぽかぽかし、夜もぐっすり眠れる「ここちよさ」。
  3. (3)硬い筋肉や筋が柔らかくなり、痛みも軽減する「ここちよさ」。
  4. (4)肌がつやつや・すべすべ・しっとりとする「ここちよさ」。(顔や手足の皮膚が輝き、化粧水が不用になる)。
  5. (5)お風呂上りがさやわかで前向きの気持ちが湧く「ここちよさ」。

これらの「ここちよさ」は現象論的な説明にすぎないが、その背後には科学的な根拠が存在 しているはずである。その観点から、解明の糸口として、「湯ったりーな昼神」(図8)のマイクロバブル温泉水での皮膚表面の抹消血管における血流実験にお いて大幅な促進がなされることが明らかとなった。この大幅な血流促進の結果は、温泉水中のマイクロバブルが「知覚神経刺激」 6)を行なったことを示唆するものでもあり、これによって体内に細胞増殖を促す成長ホルモン物質が算出される可能性もあり、それらが、「ここちよさ」と重要な関係を有しているのではないかという「重要な仮説」も得た。

以上を考慮すると、「健康材料」としてのマイクロバブルは、その概念を乗り越え、より優れた「適材」へ進化する可能性があるように思われる。

図8 マイクロバブル露天風呂

図8 マイクロバブル露天風呂

 

3.2食糧分野

地球規模での食糧の安定確保が問題となり、その資源の高騰が小さくない問題となってい る。わが国でも、食品の安全性が脅かされ、低い食糧自給率の改善が求められている。また、食卓に毎日登場する農業野菜についても、そのエキスの大幅低減や 味の低下などが原因で摂取量の減少が年々心配されている。

周知のように、野菜は土で栽培され、それには人口肥料と同時に少なからざる農薬が用いら れている。一方、一部の野菜においては水耕栽培がなされてきたが、それが土栽培を凌ぐには至っていない。ところが、その状況を覆すような事例として㈱ APJの山根式農法が現れた。その特徴は、次の4つである。

  1. (1)無機肥料・無農薬を用いた水耕栽培で、液体がすべての水槽を流れる全循環方式である。
  2. (2)水温が20℃前後に制御される。この温度帯の維持によって微生物の生育に関する最適状態が維持される。
  3. (3)15種類の野菜を栽培し、収穫は年12回の高密度栽培が可能である。
  4. (4)味がよく、土栽培の野菜よりもおいしい(従来は、その反対という評価)。

 これらの優れた特徴をさらに引き出し、①野菜の成長促進、②味の向上、③溶存酸素濃度の 向上(特に発生していた緑藻を消失させ、水路における生育環境の改善を行う)、④肥料の節約、などの具体的問題の解決が追及されることになった。ここで は、①と②の成果について紹介しよう。図9に、野菜の「サンチュ」の比較を示すが、その成長差は明らかである。また、その味においても、マイクロバブルを 与えた方で、よりやわらかく自然の味(「えぐみ」や「渋み」がない)が認められた。③、④についても少なからざる成果が示されつつあり、マイクロバブルは 食糧分野においても有望な適材になる可能性がある。


図9 野菜(サンチュ)の成長比較(株式会社APJ提供)

図9 野菜(サンチュ)の成長比較(株式会社APJ提供)

3.3 生物活性分野

マイクロバブルは、動植物から微生物までのほとんどにおいて生物活性を引き起こすので、これを利用した技術開発が可能となる。上記の温泉効果や野菜づくりがそれに該当するが、後者についてはシャープ社における半導体排水処理工場での結果が典型的である7)ここでは、わずかなマイクロバブルの供給(毎分2L)で1,000tの処理槽内の微生物量を2倍にまで増加させ、結果的に処理能力が約20倍に向上した7)。 排水の中で発生した微生物活性の詳しいメカニズムは不明のままであるが、その解明によって少なからざる実用的課題のブレイクスルーが実現される可能性があ る。また、前述の水産養殖では、大量斃死を防ぎ、大幅な成長促進を可能となるなど、排水処理の場合と同様な発展が期待される。

以上を踏まえると、マイクロ バブルは生物活性分野においても有力な適材といえる。

4 未来に向けて

マイクロバブルの物理化学的特性を踏まえ、健康、食糧、生物活性という3つの分野におけ るマイクロバブル技術の特徴と役割について考察した。その結果、マイクロバブルは、それらに共通する「未来材料」に発展する可能性があることが明らかに なった。未来に向けて、マイクロバブルを最適材とする技術開発は、上記の3つの分野だけでなく、食品、環境・エネルギー、各種機能性材料づくりなどにおい ても本質的な発展を遂げる可能性があることから、今後も、その視点からの究明が大いに期待される。




[文 献]

1)

大成博文:マイクロバブルのすべて,日本実業出版社,2006.

ム,2005,pp.377-386.

2)

H.Ohnari:Swirling fine-bubble generator.US.Patent No.6382601B1,2002.

6)

岡嶋研二:マイクロバブルの医療への応用の可能性を探る.第1回マイクロ・ナノバブル技術シンポジウム講演論文集,日本混相流学会,2006,pp.33-38.

3)

大成博文:Journal of MMIJ,123(3),1(2007).

4)

大成博文,他:水工学論文集,50,1345(2006).

7)

山嵜和幸,他:世界初・マイクロナノバブル技術による半導体工場の排水処理.第1回マイクロ・ナノバブバブル技術シンポジウム講演論文集,日本混相流学会.2006,pp.29-32

5)

小塚晃透,安井久一;ソノルミネッセンス:理論と観察(モニタリング).泡のエンジニアリング(石川淑夫,他・編),テクノシステ